Sunahara Kanon's Diary

ロシアで子育て奮闘中、バレエダンサーの雑記帳

「ママ・バレリーナ」記事への反論

どうやら日本では、子供を産んだダンサーは「ママ・バレリーナ」と呼ばれてしまうらしい。

ザハロヴァもオブラスツォーヴァも、日本ではママ・バレリーナと紹介されているのでしょうか。

私は子供を産んだけれど、ロシアでは今までと変わりなく年金カードも、口座開設だって職業欄に「バレエ・アーティスト」と書かれている。

NHK発表ということは、正式な職業名なのですね。

つまり私も、日本では「ママ・バレリーナ」という何とも冴えない職業名で身分を片付けられてしまうことになってしまいました。

ただ、子供を産んだからという理由で。最高の屈辱です。

 

NHKの 「ママでも現役バレリーナ」 という記事が目に入ってきたので読みました。

出産経験済みの女性記者が書いたとは信じ難い内容。

 

「ママでも現役バレリーナ」 https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_0906.html 

 

以下引用;

【海外では大きなおなかを抱えながら踊るバレリーナは、特別ではありません。さらには、出産後4か月で舞台に立つのも「当たり前」。

いま、世界ではこうした「ママ・バレリーナ」が、活躍の場を広げています。】

 

・誰がわざわざお金を払って、大きなおなかのダンサーを見たいと思うのだろうか。

・どこの芸術監督がおなかの大きなダンサーを公演に起用するだろうか。

・どこの劇場がおなかの大きなダンサーのために国のお金を使って衣装を作り直すだろうか。

・大きなおなかのダンサーはどうやって踊るのだろうか。

・産後4ヶ月のダンサーを公演に使う芸術監督、それを許す団長は、そのダンサーが倒れた場合に健康省に払う罰金全額用意する覚悟があるのだろうか。

・「いま、世界では」と言うけれど、子供を産むダンサーは今に始まったことではないです。この、「いま」という単語はどこから来ているのですか。

 

「当たり前」 と大胆に言えるのならば、臨月や産後4ヶ月のダンサーが踊る、コールドで「立つ」だけではなく「踊っている」公演をどこで見たのか証明してください。そして、もしそんなダンサーがいたら、先輩ママとして、「胎児に危険だからやめなさい」と教えてあげてください。

 

私は妊娠中にバーレッスンだけ出ようとしましたが、劇場に止められました。女性の監督や同僚には怒られました。

「あなたはこれから母親になるのよ。生まれてくる子のことを考えろ。あなたのエゴで胎児が危険な目に遭ったらそれは犯罪と同じ」

自分がバレエしたいからとレッスンに出ようとしたことを恥じたし、お腹の子供には申し訳なくなって涙が出ました。

 

ダンサーは陣痛に気が付かない人もいる、と医者から聞いていました。

実際、私は陣痛に気が付きませんでした。

まだ陣痛きていないから、無駄にノーパンの園収監(入院)になるのだろうと思いながらイヤイヤ産院に行って

内診を受けたら、もう子宮口開いてるのになんでもっと早く来なかったのよ!と医者に言われ、すぐ帝王切開になりました。

あのノーパンの園に収監なくてよかったから私は嬉しかったけど。

 

バレエダンサーなら陣痛に気がつかないことは割とよくあるらしいから、もし臨月でレッスンに行って

レッスン中に頭が出てきたらどうしますか。その場で胎児は落ちて死ぬか、病院まで間に合わなくて死ぬ。母体だって危ない。

このNHK記事から 「臨月、産後直後も当たり前に踊るバレエダンサー」を信じて、レッスンに行ってしまうバレエダンサーがいたとして、

もしこんな悲劇が起こったらNHKはどう責任取りますか。

 

テンプレですが「何があるかわからないのが出産」で、バレエは出産直前後にやるものではないと思います。

バレエダンサー=芸術家=努力家=美談のネタは結構、だけどダンサーの人生狂わせるかもしれない軽率な発言は控えて欲しいです。

この記事で取り上げられているダンサー、小林ひかるさんはたまたま自然分娩(産後一週間で身体動かせるなら自然分娩かな?)ができる胎児のサイズで、母体も健康で、産後も運よく経過は良く、運よく子供を預けられる人が近くにいただけです。

全てが良好だったケースを元に「当たり前」と言われても困ってしまいます。

 

この記事のせいで、子供を産むことが怖くなってしまうダンサーもいるはずです。極めて余計なプレッシャーですね。

産後4ヶ月でバレエ復帰が「当たり前」と国を掲げたNHK記者に書かれると、4ヶ月で戻れなかったら自分はバレエダンサーとして失格なのかとか思ってしまいます、私もそう思いかけましたが、夫が「こんな記事狂っている」と言ってくれたので落ち着きました。

 

私はまだ傷口傷むし、というか流血しているのでバレエ復帰をしていません。

労働人として、職場に出られない事務的な理由もあります。

ロシアでは産前70日+産後70日が「産休=病人」とされ、その後1.5年間は「育休」になります。

が、帝王切開の場合は産休が14日分追加され、給料も100パーセントで支払われます。

私は産後75日経過しましたが帝王切開したのでまだ「産休=病人」扱いで、それは9月20日に終了し、20日からは育休に接続されます。

しかし私は帝王切開後に再手術を受けたので、その産休終了後にさらに病院から病人証明を受け取り、さらに1週間「病人」となり、国からは病人手当て金が下ります。

「病人」 の期間中に職場に出ることは、法的には禁止ではありませんが、

万が一その病人が職場で倒れて救急車で運ばれることがあったりすると、職場が罰金を課されることになるので

私は劇場から 「職場に来るな」 と口酸っぱく言われています。

 

このようなNHKの記事に流されず、自分のペースでバレエに復帰するべきだと思います。

出産したら、妊婦が好きになりました。妊婦が好き!っていうのも変ですが、外で妊婦を見ると「がんばってね!」と声をかけずにはいられないお節介おばちゃん(26)なわけです。

 

だから同業のバレエ妊婦に特に伝えたいのです、バレエは妊娠中も産後直前もすぐはやらないほうがいいと思います。

バレエダンサー、流産する人多いです。だって気がつかないで踊ってるから。バレエはつまり胎児にとって危険なわけです。

同僚が妊娠中にレッスンに出ていました、性別も分かったあとの5ヶ月で死産しました。

 

私は流産を経験しています。

子供が欲しかった時でもないし、公演で忙しかった時期だったから流産してもそんなに悲しくなかったけれど、そんな事はお腹に来てくれた子供にとっては関係のないことです。妊娠したことを知らずにガンガン踊って流産しました。

望んだ妊娠でもなかったのに、なんともいえない哀しみに襲われたし、流産によって卵巣に腫瘍ができて7ヶ月間ホルモン剤の服用で治療しました。あんな経験バレエのためにしなくていいと思います。去年の10月に、監督に妊娠してもいいか?と聞きに言ってその日に望んだ妊娠をしたときには、とても嬉しかった。

 

自分の言葉には、責任を持ってください。責任持てないなら、発言しないでください。妊娠出産とバレエダンサーをただの美談としてネタに使わないでください。

そして、ママ・バレリーナなんて職業名は撤回してください。これではまるで、バレリーナが子持ちであることが特別なように聞こえます。

 


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