Sunahara Kanon's Diary

ロシアで子育て奮闘中、バレエダンサーの雑記帳

ある一冊の本の話と猫バス

「アウシュヴィッツの図書係」 著 アントニオ・G・イトゥルベ を読み終えた。

文才も読書経験も無い私が人に本を紹介することはできないが、

こんなに一冊の本に惚れ込むとは、自分でも驚いている。

 

誤解しないで欲しいのは、この記事はロシア語を勉強する一人の若者の意見であり、

誰かに対して賛同を求めているわけではない。

 

「ユダヤ」という単語自体はロシアで生活していると耳にする機会が割とあって、

常にロシア語を学ぶ身としては、避けられないテーマだと思っている。

狡賢さやスピード感を表す時 「ユダヤ的に」など一般生活の中で出てくる。

例えば、ゆで卵とにんじん、マヨネーズを擦って混ぜるだけの”超手抜きサラダ”を「ユダヤ人の前菜」と呼んだり。決して悪意があるわけではなく、合理的・(安価なのに上質に見える)見栄っ張り・素早い、という意味が込められている。

 

かと言って日本人の私がロシア人との会話の中で「ユダヤ的に」と皮肉を込めて発言できる訳にはいかず。ロシア人にとってはどうってことない言葉でも、日本人の私にとっては重すぎる。ロシアでロシア人として生まれていたのなら、こんなこと考えもしなかっただろうな。

 

ある時、バスで表紙にヒトラーが描かれた本を読んでいると、バーブシュカ(愛嬌抜群ロシアンおばあちゃん)に、「なんのために君はこのテーマについて読んでいるの?私らロシアは、勝ったじゃん。勝ったんだから、いいじゃん。」 と言われてしまい、そんな考え方もあるのかと、とても新鮮だった。

(そのバーブシュカは私が外国人であることに気がつかなかった。ロシア人でないことを伝えると、”あらまあ!じゃあどうやってロシアが勝ったか知るために是非読んで、祖国にロシアの素晴らしさを伝えることね!私の旦那はね、戦ったのよ!”と喜んで教えてくれた)

 

先日、私のポーランド行きたい欲をさらに掻き立てられた出来事があった。

英語の全く分からない芸術監督がハンガリーから振付家を連れて来たのである。その経緯は謎。私は英語→ロシア語の通訳に回された。

彼は50代後半のユダヤ人で、とても舞台関係者とは思えない、澄みきった青の賢くユーモア溢れる目をしていて、いかにもおしゃべり好きな顔をしていた。今聞かないとこんなチャンス二度と無い、どうせ芸術監督は分からないからと私はバレエから話題を変え、戦時中の話を聞かせて欲しいと頼むと、彼は一瞬、驚きの表情を見せつつも 「綺麗なお嬢さんだけに、特別だよ」 と赤子をあやすような表情で私に話して聞かせてくれた。

つたない、最低レベルの英語しか分からない私に合わせてゆっくり時間をかけてくれた。

白黒映画の登場人物になった感覚だった、主人公を階段下から覗いてる感覚、本よりもずっと現実的で一つ一つのが映像のように脳裏に結像され、ショックだった。

 

取り留めのない文章になってしまったが、

「アウシュヴィッツの図書係」は私が初めて、人と共有したいと思う本なのでここに書いておこうと思ったまでです。

 

話題は変わって、

昨日は友人・デニスのもとに正式な兵役通知書が届いてなんと2日後には、彼はもう兵役に”連れて行かれる” と聞いたので彼の家を訪ねてきた。

デニスは6月に大学卒業した時点で、今年兵役に行くことは分かっていながらも、新年は家族と過ごせるものだと思っていたようで 「時期が悪かったな~」と残念そうにしていた。

寝台車に乗るまでは兵役先も分からないし、期間は今のロシア連邦では1年とされているが、本当に1年で戻ってこれるという保証はどこにもない。

 

彼の婚約者のナージャが泣き崩れている一方で、彼の両親は誇らしげに料理を振舞っていた。兵役中はロシア人の大好きな「マカロニ」も「甘だるい練乳」もお預けなのだ。

しかも身長2メートル10センチ、体重130キロ越えの見た目がトトロなデニスは、兵役中はダイエットが義務付けられるだろう。デニスは残り2日、食べたいものを食べたいだけ食べると張り切っている。

 

デニスは「僕、そろそろ猫バスに乗る時間だよ」 と言ってナージャを笑わせていた。

是非1年後には帰ってきて、この二人には結婚して欲しい。

二人は画家であり建築家同士なので喧嘩も多いけど、見ててお似合い。

 

ちなみに、トトロの猫バスは、ロシア語でコトーバス。

となりのトトロは モーイサセード トトーロ。

ロシア人の発音すると to tO ro という感じになる、とてもかわいい。

 

ロシアでもトトロは有名人。